戦乱恋譚


「薬などは効果がないのですか…?!」


焦ってそう尋ねる咲夜さんに、「この状態で薬が効くまで待つ余裕などない!」と叫ぶ銀次さん。

折り神たちが不安げに伊織を見つめたその時。私の脳裏にかつて働いていた診療所がよぎった。


「…私の住む世界なら、伊織を助ける術(すべ)があるかもしれない…!」


「「「!」」」


はっ!とする一同。千鶴が、空を見上げて早口で告げた。


「まだ夜明け前だ!元の世界に帰るには、十分間に合う!」


しかし、私の中に迷いが生まれ、声が震える。


「でも、もし伊織を連れて行ったら、この世界に戻れないかもしれない…!私が時空の歪みに巻き込まれたのは、場所もよく覚えていないくらい、本当に偶然の出来事だし…!」


よく考えてみれば、あのコンクリートの道をいつも帰っているが、トリップなんて夢みたいな出来事に巻き込まれたのは初めてだ。

この世界の人の話を聞く限り、トリップは頻繁に起こるわけではないらしい。

するとその時。低く通った声が耳に届いた。


『次の満月の夜、あちらの世界で私を呼べ。…そうすれば、私がこの世界に繋がる時空の歪みを作り出してやる。』


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