戦乱恋譚

ギッ…


木の床が軋み、ふわっ、と香る薬品の匂い。机の上には難しそうな書類や資料が並べられ、棚には見たこともない薬草が所狭しと並べられている。

どうやら、この世界には医療道具が普及しているようだ。さすがに私がいた世界のように進化してはいないが、大きな外傷でも最低限の処置ができるほどの器具はあるらしい。


「銀次さんは、昔から神城家の専属医師として働いているんですか?」


「えぇ。先先代の当主に声をかけられましてな。先代のことも、もちろん伊織殿のこともよく知っております。」


(そんなに古くからこの屋敷にいるんだ…。)


改めて神城家の歴史に感心する。その時、私はふと、これまで使用人たちに尋ねてきた問いを彼に投げかけた。


「銀次さんから見て、伊織はどういう人なんですか?」


「伊織殿、ですか?…彼は昔から可愛らしくて、聡明なお方でした。陰陽師としての修行にも熱心で、当主であったお父上をひどく慕っておいででしたね。」


彼は、まるで孫を語るような微笑ましい顔をしてそう答えた。伊織の幼い頃は、少し想像できる。まさに、天使のような少年だったのだろう。

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