戦乱恋譚

しかし、その時。銀次さんの顔がふっ、と曇った。


「ただ、十年前。先代が月派の当主によって殺された日から、伊織殿は少し変わってしまった。」


「え…?」


「当時、まだ、たった十三だった伊織殿は、父の跡を継ぎ、その小さな体で神城家を背負う当主となったのじゃ。」


(十三歳で…?)


その時、昨夜の記憶が蘇る。…確か、咲夜さんが伊織に仕え始めたのも、“十年前”だと言っていた。

銀次さんは、物憂げな表情で小さく続ける。


「それから、伊織殿は神城の領地を守るため、戦地に赴くことが増えた。あの方は弱音を吐かないのでな。わしが声をかけても、“大丈夫”の一点張りで。…だが、一度だけ、無理がたたって病をこじらせ、倒れたことがあるんじゃ。」


「…っ!」


さっ、と血の気が引いた。

“倒れた”?あの伊織が?

確かに、知り合ってまだ間もないが、私は伊織に対し、責任感のある真面目な人だという印象を持っていた。少し話すだけで伝わるほど誠実な人柄は、まさに当主に相応しい。

…その分、人を頼らない性格だとも、想像がつく。


「華さまは、伊織殿の体のことは…?」


「いえ。…まったく…」


「…そうか…」

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