戦乱恋譚
銀次は、ぽつり、と呟いて数秒黙り込む。そして、何か考え込むような仕草の後、弱々しく微笑んだ。
「不安にさせるようなことを言ってすまなかったな。伊織殿はあまり自分のことは言わんが、あの方が大丈夫と言っているうちは心配いらんじゃろう。」
その優しく言い聞かせるような口調に、私は小さく頷く。銀次さんはそれを見てほっ、としたのか、穏やかに笑って言葉を続けた。
「また、聞きたいことがあれば医務室においでください。銀次はいつでもここにおりますからな。」
「…はい。ありがとうございます。」
…ガララ。
引き戸を開け、廊下に出る。トン、と扉を閉めると、頭に浮かぶのは伊織の顔だった。
(私、あの人のこと、まだ全然知らないんだな…。)
胸の奥に現れた靄は、嫌な予感となってざわざわと騒ぎ出した。落ち着かない心のまま、私はただ、戦地からの彼の帰還を待ち続けたのだった。