戦乱恋譚
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…がやがや…
午後六時。夕日が沈み、町が夜の世界に変わってきた頃、屋敷の人々が伊織の出迎えで賑わい始めた。
「おい、聞いたか?百の式神を、伊織様がお一人で相手したらしいぞ!」
「西の派閥が陽派にくだったらしいわ。伊織様が治めてくだされば、この家は安泰ね!」
口々にそう言って笑う屋敷の人々。陽派の勝利に使用人たちの士気も上がっているようで、伊織を称え敬う声が屋敷中に飛び交っている。
私が伊織を出迎えようと家の門に出た時、すでに彼の姿はそこになかった。
なぜか、嫌な胸騒ぎが止まらない。早く彼の顔を見たくて、私は屋敷の廊下を小走りで進んでいた。
(…あ!)
すると、ちょうど離れの部屋に向かう伊織の背中が見える。
「伊織!」
「…!」
呼び止めると、彼はふいっ、とこちらを振り向いた。白銅の瞳が、私を映した瞬間、ふっ、と優しげに細まる。
「華さん。…ただいま帰りました。」
「お帰りなさい…!」
今朝と変わらずにこり、と笑う彼に、ほっ、とした。
「怪我は?どこも痛くない?」
「かすり傷程度ですよ。心配いりません。」