戦乱恋譚

**

…がやがや…


午後六時。夕日が沈み、町が夜の世界に変わってきた頃、屋敷の人々が伊織の出迎えで賑わい始めた。


「おい、聞いたか?百の式神を、伊織様がお一人で相手したらしいぞ!」


「西の派閥が陽派にくだったらしいわ。伊織様が治めてくだされば、この家は安泰ね!」


口々にそう言って笑う屋敷の人々。陽派の勝利に使用人たちの士気も上がっているようで、伊織を称え敬う声が屋敷中に飛び交っている。

私が伊織を出迎えようと家の門に出た時、すでに彼の姿はそこになかった。

なぜか、嫌な胸騒ぎが止まらない。早く彼の顔を見たくて、私は屋敷の廊下を小走りで進んでいた。


(…あ!)


すると、ちょうど離れの部屋に向かう伊織の背中が見える。


「伊織!」


「…!」


呼び止めると、彼はふいっ、とこちらを振り向いた。白銅の瞳が、私を映した瞬間、ふっ、と優しげに細まる。


「華さん。…ただいま帰りました。」


「お帰りなさい…!」


今朝と変わらずにこり、と笑う彼に、ほっ、とした。


「怪我は?どこも痛くない?」


「かすり傷程度ですよ。心配いりません。」


< 43 / 177 >

この作品をシェア

pagetop