戦乱恋譚
一日かかるほどの派閥争いを鎮めに行った割に、かすり傷だけで帰ってくるなんて。やはり伊織は武人としても腕が立つらしい。
するとその時。私はわずかな彼の異変にどきり、とした。
「伊織、何だか顔色が悪いよ。」
「え…」
今朝会った時よりも、どこか顔が蒼白な気がした。ふらついている様子はないが、どこかおかしい。
思わず手を握ると、彼の指はひやっ、と冷たかった。
「体温も低い。…いつもこんなに冷たいってわけじゃないよね?」
「…!いえ…、心配することではないですよ。顔色が悪いのも、夜だからそう見えるだけじゃないですか?」
その時、ふと、銀次さんの言葉が頭をよぎる。
“あの方は弱音を吐かないのでな。わしが声をかけても、“大丈夫”の一点張りで。…だが、一度だけ、無理がたたって病をこじらせ、倒れたことがあるんじゃ。”
どくん…!
心臓が鈍く音を立てた。私の前にいる伊織が、ひどく儚い存在のように思える。あんな話を聞いた後だ。笑みを見せる彼が、まるで私に心配かけまいと無理をしているようにしか見えない。
「伊織。…一人で、何か抱え込んでいるんじゃない?」
「!」
「陽派の当主として、大きいものを背負っているんだって分かるけど…無理を重ねてまで戦い続けるのはよくないんじゃ…」
…と、その時だった。