戦乱恋譚
ばっ!
振り払われる手。まるで拒絶するような反応に、一瞬怯む。
すると、感情のこもっていない低い声が耳に届いた。
「…華さんには、関係のないことです。」
「!」
“線を引かれた”
出すぎた真似。それはすぐにわかった。初めて冷たい態度を見せる伊織に、ショックが隠せない。
伊織が、目を見開く私を見て動きを止めた。我にかえったように動揺する彼の瞳は揺れている。私の手を振り払った手前、伊織も気まずそうに私から視線を逸らす。
しぃん…
静まり返る二人の空気。すると数秒の沈黙後、伊織が目を合わせないままぽつり、と口を開いた。
「…お気遣いありがとうございます。でも、本当に大丈夫ですので。…では。」
「あ…」
去っていく背中。彼はこちらを振り返らない。私は、ぽつん、と廊下に取り残されたまま、引き止めかけた手をゆらゆらと彷徨わせた。
屋敷の賑わいが、やけに遠くから聞こえるような気がした。