戦乱恋譚
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ホー…ホー…
フクロウの鳴き声が聞こえる。屋敷はすっかり夜の闇に包まれて、人々は皆寝静まった。
私は簡易な寝間着に着替え、布団の中で寝返りを打つ。
しかし、何度寝付こうとしても伊織に振り払われた手の感覚が蘇り、心をキリキリと締め付けるのだ。
(…だめだ。ちょっと夜風に当たろう。)
音を立てないように障子を開け、縁側に腰掛ける。涼しい夜の風が肌を撫でた、その時だった。
『…寝れねぇのか。』
「!」
トン、と、屋根の上から白い影が舞い降りた。月明かりに照らされたのは、深紅の瞳。
「千鶴…」
『…どうした?元気ねぇな。朝の威勢はどこいった。』
ドサ、と私の隣に座った彼は、首を傾げて私の顔を覗き込んだ。彼の優しさに、つい、言葉が溢れる。
「…私、伊織に嫌われちゃったかもしれない。」
『はぁ…?』
千鶴は、それが予想外だったようで、眉を寄せて私に答えた。
『伊織に限ってそれはねぇと思うけど…。なんかあったのかよ。』
「…私が、お節介を焼いてしまったというか…。伊織の踏み込んで欲しくないところに、無神経に触れてしまったというか…」