戦乱恋譚
私は、彼が伊織とともに戦地に赴いていた時に屋敷の使用人達から聞いた話や、先ほどの伊織との一件を全て話した。
私の心情を察したような千鶴は、腕を組んで呟く。
『確かに、俺も伊織のことはそこまで詳しく知らないからな。…伊織が変わった、っていう“十年前”の事件ことも、直接立ち会ったわけじゃねえし…』
すると、そこまで言いかけた彼が、はっ、として私を見た。
『…そうだ。“あいつ”なら…。』
「“あいつ”?」
千鶴は、わずかにまつげを伏せて続ける。
『十年前、先代の陽派当主…遼太郎に仕えていた“折り神”がいたんだよ。そいつを顕現して話を聞けば、何か分かるんじゃないか?』
(!)
それは、思っても見ない提案だった。確かに、この屋敷の最高齢である銀次さんよりも長く神城家を見てきた神さまなら、生きている人の知らない過去まで分かるかもしれない。
それに、十年前に顕現されていたのなら、なおさらだ。
しかし、私は罪悪感が込み上げ、千鶴に尋ねた。
「いいのかな、勝手にそんなことして…。もし、伊織が知られたくないことだったら…」
すると、千鶴が急に、ばん!と私の背中を叩いた。思わず目を見開くと、彼はいつもの笑みでさらり、と告げる。
『何心配してんだよ。姫さんと伊織は、仮とは言えど“夫婦”だろ?』
「!」
『大切な相手のことをもっと知りたいと思うことの、何が悪いんだよ。』