戦乱恋譚
急に顔を曇らせる虎太くん。橙の瞳が、徐々に色を弱める。
『…あの日は…まさに“地獄”でした。陽派が拠点としていた城に、月派の十二代目当主“本条 宗一郎(ほんじょう そういちろう)”が、数多の式神を引き連れて攻め入ったのです。』
脳裏に、炎に包まれる城がよぎる。廃城となる前、あの城が事件の起こった現場だったらしい。
『ぼくは、遼太郎さまに顕現され、幼き伊織さまを敵の式神からお守りしていました。…徐々に城が攻め落とされ、遼太郎さまの式神も力にかなわず消されていきました。』
虎太くんは、静かに続ける。
『…そして、あの日の夜。決死の覚悟で戦った遼太郎さまは、顕現録を守ることと引き換えに、伊織さまの目の前で十二代目に殺されたのです。』
「『!!』」
ズシン、と、体に衝撃が走った。鉛のように重い負の感情がのしかかる。
その時、伊織はまだ十三歳。彼がどれほどのショックを受けたのか、想像もつかない。
…あの城に顕現録が隠されていたのは、十年前の事件が原因だと知り、私は、この世界に来た夜の出来事を全て理解した。
伊織はあの夜、お父さんが命と引き換えに守った顕現録を再び月派から守るために城に行ったんだ。二度と地も踏みたくないほどの悪夢を見たあの城に。