戦乱恋譚
『僕は屋敷の使用人たちと伊織さまを守ることに必死で……、…一番大切な主を、守れなかった…』
ぽたり。
橙の瞳から、涙が溢れた。ぼろぼろと止まらない雫を、千鶴が白い袖で優しく拭く。
「…ごめんなさい。辛いことを思い出させて…」
私の言葉に、虎太くんはふるふる、と頭を振った。
『いいんです。…ぼくはいずれ、伊織さまのお側にいてくださる方が出来たら、この事を話そうと思っていましたから。』
(え…?)
虎太くんが、まっすぐな瞳で私を見つめる。そっ、と握られた手に、力が込められた。
『伊織さまの力になれるのは…きっと、姫さまだけです。』
にこり、と微笑んだ虎太くんに、千鶴も私を見て続けた。
『確かに、滅多にわがままを言わない伊織が、初めて自分から側においた女だからな。…姫さんは、もっと自分に自信を持っていいと思うぞ。』
(…!)
私は、すくっ、と立ち上がった。二人の折り神は、そんな私の背中をトン、と押す。
「私、伊織と話してくる…!」
『おぅ!図々しく行けよ!』
『頑張ってください、姫さま!』
私は、そんな二人に見送られ、彼のいる“離れ”へと駆け出したのだった。