戦乱恋譚
すると、伊織が小さく呟いた。
「…幻滅しましたよね?神城家を背負う当主が、安易なお守りに頼ったり、式神にたたり殺されることを恐れて、寝所に魔除けの札を貼っているなんて…」
「…!」
彼は、自嘲するような笑みを浮かべて私を見た。初めて見る弱々しい表情に、私は首を振る。
「幻滅なんて、しないよ。」
「…!」
「誰だって、死ぬのは怖いでしょう?」
伊織は、私の言葉に、はっ、と目を見開いた。沈黙が部屋を包む。数秒後、彼は、力が抜けたようにぽつり、と呟いた。
「…優しいですね、華さんは。」
伊織は、私から視線を逸らしてまつげを伏せた。くしゃ…、と前髪をかきあげる仕草に、どきん、と心臓が音を立てる。
「…俺は、十年前。死んだ父の跡を継いで、陽派の当主となりました。…その頃の俺は必死で、神城の名を守るためにあらゆる戦地に赴き、そこら一帯を占める派閥を霊力で無理やりおさえつけ、領地を広げていったんです。」