戦乱恋譚
重々しい声。伊織を縛り付ける過去が、彼の唇から紡がれていく。
「俺は、強くなければならなかった。命なんてかえりみず、父のように、自分を慕う者を、式神を、神城の名を、守らなければならなかった。」
だけど…、と彼は続けた。
「俺が相手にするのは、陰陽師だけじゃなかった。彼らが呼び出した“神”でさえ、俺の前に立ちはだかった。…俺は、急に怖くなったんです。人外の持つ力に、一人間が叶うわけがない。傷つけ、殺したとしたら、どんな反動が返ってくるかわからない。…だけど、敵に怯えている姿なんか、偉大な当主であった父の影を俺に重ねている家の者には、見せられなかった。」
その時、昼間の使用人たちの姿が頭をよぎった。彼らは皆、伊織を慕い、その圧倒的な当主としての力に信頼と期待を寄せていた。
それは、伊織が築いてきたものであり、それと同時に、彼を苦しめる枷でもあったのだ。
私は、そんな伊織に静かに告げる。
「あのね、伊織。…私、昼間、色々な使用人の方とお話をして、伊織のことを聞いたの。」
「俺の…?」
「うん。みんな、伊織のことを尊敬してて、本当にすごいなって思った。」