戦乱恋譚
黙って話を聞いてくれる彼に、私は躊躇しながら続ける。
「…銀次さんから、昔、伊織が無理をしすぎて、病をこじらせて倒れたって聞いたの。」
「!」
「だからさっき、戦地から帰ってきた伊織が、辛いのを隠しているように見えて、余計なことを言っちゃった。…また、一人で我慢しているんじゃないかと思って。」
小さく呼吸をする伊織。白銅の瞳を揺らす彼に、私は、ばっ、と頭を下げた。
「伊織の背負ってるものの大きさを部外者の私が分かるわけないのに、知ったような口で偉そうなことを言ってごめんなさい…!」
「!」
彼が、小さく息を呑む声が聞こえた。私は、頭を下げたまま続ける。
「…さっき、虎太くんから、十年前に起きた事件のことを聞いたの。」
私は、色々な感情が胸に込み上がってきて、言葉が止まらない。
「勝手に人の過去を詮索するようなことをして、悪いと思ってる。…でも、虎太くんから話を聞いて気付いたの。伊織が頑なに弱さを見せないで、無理をしてでも一人で戦場に行くのは…お父さんが命がけで繋いだ陽派を守るためなんだ、って。」