戦乱恋譚
震える声が、部屋に響いた。言っていて、だんだん喉が熱くなってくる。
だめだ、泣きそうになっている立場ではないのに。
計り知れないほどの重圧を背負った伊織のことを考えたら、胸が苦しくてたまらない。
「顕現録だって、あれは伊織のお父さんが遺した大切なもので、異世界から来た、何も知らない私なんかが持っていていいものじゃないのに。…あの夜、伊織の霊力を奪ったせいで、伊織がたくさん辛い思いをして得てきたものを、全て壊してしまった気がして…」
…と、つい堪えきれずに涙が溢れた
その時だった。
…ふわっ。
「!」
優しい手のひらが、私の頭を撫でた。ぽろり、と涙が畳に落ちた瞬間、伊織の穏やかな声が耳に届く。
「顔を上げてください、華さん。」
ゆっくりと視線を上げると、伊織の指が私の頰を包んだ。優しく拭われる涙。にこり、と微笑んだ伊織は、いつもの声で囁いた。
「ありがとうございます。俺のために、泣いてくれているんですよね。」
「…!こ、これは、無神経な自分が許せなくて。」
「華さんが気にすることなんてないですよ。…貴方は、何も悪くありません。」