戦乱恋譚
伊織は、すっ、と私から離れてあぐらをかいた。そして、どこか遠い瞳でぽつり、と呟く。
「…いつも、あの夜の夢を見るんです。」
「!」
「…目の前で父が殺されて…。うなされて起きる度に、俺は月派の十二代目に復讐することだけを考えてきました。…でも…」
伊織が、ふっ、と私を見た。綺麗な白銅の瞳が私を映す。
「俺は、華さんと会って、少し考え方が変わりました。」
「私…?」
「はい。…貴方と初めて会った夜。折り神を顕現させる貴方を見て、かつての父を重ねました。式神たちと心を通わせる、純粋な陰陽師だった父の姿を思い出したんです。」
ふわり、と微笑んだ彼は、優しく私の頰を撫で、言葉を続けた。
「月派に依り代の折り方のページを奪われた俺一人では、折り神を顕現されることは出来ませんでした。華さんは、俺の霊力を奪ったんじゃない。俺を救ってくれたんです。…ずっとあの悪夢の夜に囚われていた俺を。」
ふっ、と、心が軽くなった。彼が、本気でそう言ってくれているということが、触れる指先の優しさから伝わってくる。
「…さっきは、手を振り払ったりしてすみませんでした。つい、貴方にひどいことを言って傷つけてしまって…謝っても足りません。」
「ううん、いいの…!私の方こそ、ごめんなさい。」