戦乱恋譚
お互い、真剣な顔をして頭を下げる。数秒後、ゆっくりあげた視線が交わり、ふっ、と吹き出す。
あぁ、よかった。いつもの伊織だ。…元に戻れた。
私が、ほっ、と肩の力を抜いた時、伊織は、すっ、と立ち上がった。がらり、と引き戸を開けると、外には月が煌々と輝いている。
「…わざわざ会いにきていただいて、ありがとうございます。…もう夜も更けます。そろそろお部屋で休んでください。」
「うん。ありがとう、伊織。話が出来て良かった。」
私は、彼につられて立ち上がり、離れの引き戸から一歩、廊下へ出た。扉に持たれて見送る彼に、はっ、として声をかける。
「…そうだ、伊織。体は、もう大丈夫なの?」
「え?」
「…ほら、銀次さんの言っていた病のこと。倒れてしまうほどの病気なら、放っておくと酷くなるんじゃないかと思って…」
すると、伊織はわずかにまつげを伏せた。しかし、それは一瞬で、すぐにいつもの笑みに戻る。
「もちろん、完治しましたよ。…でなきゃ、一人で戦地には行けません。」
(そうか。…それもそうだよね。)