戦乱恋譚
ブワッ!
一瞬、光の中に人影が見えた。ふっ、と、切れ長の桃色の瞳と目があう。
(…っ!)
しかし、息を呑んだ瞬間、顕現の光がパァン!と弾け飛んだ。
「!」
一気に消滅する霊力。消え去る光。思わずよろめいた体を伊織が素早く抱きとめた。
目の前には、“誰もいない”。
『折り神が…消えただと…?!』
千鶴の動揺した声が部屋に響いた。何が起こったのか、把握できない。確かに、そこに“彼”はいたはずだ。
(どういうこと…っ?!)
と、その時。背中から、伊織の冷静な声が聞こえた。
「依り代が消えた以上、折り神はちゃんと顕現されたはずです。…しかし、彼は自らの意思で姿を隠してしまったようですね。」
「…!」
がくん、とその場に崩れ落ちる。
まさか、目が合ったあの一瞬で、“この主は仕えるに値しない”と見極められてしまったのだろうか。…伊織の霊力を奪っただけの、本当の当主ではない私の弱さを見抜かれたのかもしれない。