神様には成れない。
時間が経つと妙に恥ずかしくなってしまうらしいが、きっと彼はそんな事一切ないのだろう。
結果、私の中でどうにも処理しきれない感情が生まれて消えなくなり、気持ちは一歩後ずさっていた。
「えっと、あの、昨日はありがとう」
『ううん、こちらこそ』
とりあえずは先にお礼を述べつつも、頭は言葉を組み立てるのに必死に稼働をしている。
しかし、隣に友人が座っているので聴く気がないにしろ、自然と言葉は聞こえてしまうだろう。不用意に誤解を招くような事は言えない。
何よりもう私の方が尻込みしてしまっている。
『起こさずに出て来たけど、大学間に合った?』
「うん、なんとか。また今度ちゃんとお礼させてもらうね」
『いやいや、別にいいよ。俺の我儘に付き合ってもらったんだから俺がちゃんとお礼する方だよ』
そんな社交辞令のような会話をして、私は狡い方向に向かっていた。
こんな事なら最初から、鍵なんて置いて来てしまえば良かったのだ。今更ながら後悔する。
「……えと、えっと、それだけなんだけど、またね」
返事を待たずして勝手に通話を切り、勢いそのままに鞄にスマホを突っ込んだ。
こんな事一つで逃げてしまうのに、私はちゃんと借りた物を返す事が出来るのだろうか。
“またね”なんて、次はいつなのか不明確な癖して。