神様には成れない。
堪らず抗議すればゆるりと首が振られる。
それは何かを諦めるように。それでも何かを期待するように。
黒い瞳を逸らさず、真っ直ぐに見つめる。
「んーーん。俺はここから踏み込むのが怖いだけから瀬戸さんが手を繋いでてほしいだけだよ」
それがまさに意味だと言うように。
だから、勇気を持つために繋いだ手を強く繋ぎ直して、恥ずかしさに逸らしたくなる目をそれでも必死に見据える。
顔が熱くて、鏡など見るまでもなく赤くなっているであろう事が分かった。
大学生にもなって、こんな事一つで一杯一杯な自分が情けなく感じてしまうけれど、私はこの手が欲しい。彼の心が欲しい。
「っ――」
彼が欲しい。
「わっ、私の淵くんになってほし……」
十分に空気を吸い込んだ筈だったのに、か細く掠れていく声。
ちゃんと言えたのか言えてないのか、沸騰したように熱くなった頭では認識すら出来なかったのだが、彼の声が私を掬い上げてくれた。
「うん。ありがとう。なら、瀬戸さんは俺だけの瀬戸さんでいてね」
そう言って彼は嬉しそうに顔を綻ばせた。