神様には成れない。


あらかじめ病院できちんと処置してもらったからこそ、殆ど痛い思いなどはしなかったのだが、そう言う事もあるのだと知ってしまうと恐ろしい。


「ひ、引っ張るって何したの?」


もしも日常生活で引っ張ってしまうようなことがあれば、予防のためにも聞いておいて気を付けようと聞いたまでの事だった。

しかし、話の中で意図せず違う話題が付いて来ることなど往々にしてある事で。


「んーー……付き合ってた子が俺のピアス引っ張っちゃって」


言いづらそうにしながらも、誤魔化すことなく口にする。

目を伏せ気味にしているのは、私に対して気を使っているからなのだろうか。それとも付き合っていた子の事を想い返しているのか。


「――淵くん」

「あ、降りる駅だ」

「わっ!?」


間がいいのか悪いのか、奇しくも降りる駅に到着してしまい、また手を引かれるままに地下鉄に乗り換える為に下車をする。

そうして、またその話を出来るかと言えば出来る訳もなく、また次の駅に向かう電車を見送ったのだった。


「って……淵くんも降りてどうするの!?淵くん降りる駅じゃないでしょう?」

「え?いや、元々送るつもりだったし」

「そこまでしてもらわなくても……!」

「はいはい。遠慮はいいから乗りえるよ」


軽い調子で流して歩き始めた後に「瀬戸さんならそう言うと思ってたけど」と予想していたと言われてしまえば言い返す言葉など見つからなかったのだった。


< 171 / 488 >

この作品をシェア

pagetop