神様には成れない。


ソフトクリームを台無しにしてしまった事に泣いているのだろうか、それとも他の事で泣いているのだろうか。

明確な理由は分からないけれど、小さい子が泣いていると此方も悲しい気持ちになってしまう。


「怪我してない?立てるかな?」


見た所外傷はないようだが、問いかけてみれば頷いて意思表示を見せてくれる。

手を差し出して引っ張れば立ち上がるも、ボロボロと涙を流したままだ。ハンカチを鞄から取り出して、彼女の頬を拭う。


「ひっく……ごっ、ごめんな、さ……!」

「ううん。大丈夫だよ」

「ね、君、お父さんとお母さんは?」


彼も私と同じように屈んで彼女に声を掛ける。


「あっち……」


と指す方向は施設に隣接している大きな公園の方向で、人混みでどの人がそうなのかは分からない。そもそも本当に其方にいるのだろうか。

私も一緒になって彼女が指さす方を目を凝らして見ていると「あれ?」と小さな声が上がる。


「いない……」


ポツリと呟かれた声は不安そうで、また泣きだしそうだった。

“いない”と表すのは彼女が親と逸れた事だ。

となれば放って置くなんて事は勿論できない。かと言って公園の方に居るのであれば建物内の迷子センター等に連れて行った所で放送は届かないだろう。

ならばそこに行くのは最後にして、一度公園の方まで見に行ってからでもいいのかもしれない。


「ふっ、ふぇ……っ!」

「あっ!」


どうするかを考えている間に、事の状況を理解始めた彼女が大声で泣き出す準備が始まる。

充電を貯めるように徐々にしゃくり上げる。


「ねぇねぇ。さっき君が持ってたソフトクリーム、何処にあるの?」


それを遮るように呑気な、それでも安心させるような優しい声色が通る。

本格的に泣きだしてしまうまえに。と考えていたのは彼も一緒なのか私よりも早く彼女に声を掛けたのだ。


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