神様には成れない。
暗い。真っ暗だ。目が闇に飲まれた。
「――ほら、これで何も見えない」
それでも彼が笑ったのが気配で分かった。
どうやら私の後ろのベッドボードに、部屋の電気を切るリモコンが置いてあったようで彼はそれに手を伸ばしたみたいだ。
いやでもしかし
「そっ、そう言う問題じゃ、ない、ないんだけどね……っ!?」
声を裏返しながら抗議せざるを得ない。
これも酔っている故なのだろうが、いつも通りに振る舞いながらも返答はズレているのでドギマギしっぱなしだ。
また、彼が動く気配がした。
暗闇に慣れない目ではよく見えない。いや、見えなくてもいいのだが、それでも再び衣擦れが聴こえた事から彼はこの暗闇でも服を手に取り、きちんと着直したようだ。
ホッと息を吐き、ドッドッと嫌な鼓動を出す心臓を抑えた。
「でも、本当に瀬戸さんってお嬢様って感じだよねぇ」
「おじょう……?」
「たかだか男の裸見たくらいで、純粋で初心で……可愛いね」
クスクスと暗闇から笑い声が聞こえた。
馬鹿にされているのか、感心されているのか、言葉からでは読み取る事が難しい。
困惑している間に、目が暗闇に馴染み始める。彼の体の輪郭を捉えた。
「ねぇ、瀬戸さん」
それは、動きを見せて徐々に此方に膝をついて寄ってくる。
暗闇。それでもそれは間近に物質があれば殆ど関係なくなる。
「お願いだから、何処にも行かないで」
懇願の声はぼんやりと目に映った表情に見合うものだった。