神様には成れない。


まるで縋るように、それでも触れてはならない物のように、彼は私の前で俯いた。


「急にどうし……」

「俺、変なんだ」


ボソッと落とされた小さな声は闇よりも暗い。


「頭グルグルして気持ち悪くて」

「そ、それは単に酔っているだけなのでは?」


こんな時なのに場違いに真面目な返答を返してしまう。しかし、今の彼は明らかに正常ではない。


「んーーん、違う、そうじゃなくて。……――」


考え込む様に彼が黙ると、途端に静寂が訪れる。

何の音もしない。今は何時なのだろう、それすらも分からない。真っ暗で寂しい。

まるで自分が何処かに取り残されたような感覚がして怖くなり、無意識に指先を動かしていた。


「っ、」


動かした指は、すぐに何かに触れた。

何か。だなんてそれは誤魔化しで、彼の指先に触れた事などすぐに分かった。見えないのではなく、見ない振りをしたのだ。


「……」


彼が息を飲むのが分かった。


「――瀬戸さん」

「!」


逃げようとした指先を、彼は絡め取ってまた私を繋ぎとめた。



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