神様には成れない。


引っ張れば引っ張るほど恥ずかしくなって、口にするのすら躊躇われてしまうのだから一思いに言ってしまえば良いのだ。

この頭を埋めた体勢のままなら言える筈だ。彼の性格上言えるまで譲ってはくれない。


「っ、っ~~!」


しかしながら、笑い話にしてしまうには遅過ぎた。この状態から淡々と話すには無理がある。

モゴモゴと口元を動かしながら最大限オブラートに包もうとするのだが肝心の声が出ない。


「瀬戸さん」


ふと、優しい声が降り注いだ。


「なら、怖い思いはした?」


それは小さい子に語るようで。まるで夜に潜めたような柔らかい声で私に問う。

怯えて出なかった声が様子を伺いながらも答える為に顔を出す。


「……してないよ」

「怪我とかはしてない?」


彼は原因追求よりも私を気遣うような言葉を送ってくれる。この反応を見てもそんな事はないとわかる筈なのに。

それでも、それが嬉しいなどと思ってしまう私はこれほどまでに子供染みていただろうか。


「……淵くんとおデコぶつけた」

「そっか。ごめんね、痛かったでしょ?」


また思い出す。私は彼のこの優しさが好きなのだと、自分の事よりも人を優先するようなそんな優しさが。

きっと、私が変な反応を示して少なからず彼だって何かしらの気持ちが揺れ動いた筈なのに、それを無視してまで私に歩み寄ってくれる。

ギュッと強く心臓が掴まれるような感覚がした。


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