神様には成れない。


「痛くないよ」


額など些細なもので、心臓の方が痛い。でも、そんなのは心地の良い痛さだった。


「怒りたい事あるなら怒っていいよ」

「ないよ。怒るような事なかったもの」

「じゃあ、不満がある事」

「ないよ。いつだって淵くんは優しいじゃない」


怒ることも不満に思う事もない。そこから斬り込んでいく気などない。そうなってしまえば昨日の彼ごと否定してしまいかねないからだ。

昨日の淵くんだって紛れもなく彼だ。他の人である筈がない。見えなかった所が見えたに過ぎない。

私は少しだけ顔を上げて、此方に背を向けてベッドの縁に座っている彼に手を伸ばした。


「……手、握って」

「え?」


声をかければ当たり前に目が合って、まだ恥ずかしさが抜けない私はまた頭を下げてしまう。けれど、手は引っ込めたりはしない。


「……嫌じゃないの?怖くない?」

「嫌でもないし、怖くないって言ったよ。ただ、は、恥ずかしいだけで」

「そう。無理だったらちゃんと言ってね」


そんな前置きを作り、彼は私の指の間に自らの指先を滑り込ませた。


「うぅ……」


また熱が体の奥底から呼び覚まされた。

覚えてる。キツく握られた手も、体温も、鼓動も。


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