神様には成れない。
似合わない事などやめてしまおう。
私が怒らなかった理由はここに、彼にあったのだから。
「……本当に」
「うん?」
「本当に私、大丈夫だから」
「……うん、そうだよね。瀬戸さんは優しいから」
「ううん」
違う。違うのだ。優しさだけでここに居れるほど私はできた人間ではない。
「私はいつでも帰れたんだよ。放っておいても昨日の状態でも淵くんはきっと自力で帰ったと思う」
ただ、駄々をこねていた様子だったのだ。誰も相手しなければ、意味などない行動に終止符は簡単に打たれたはずなのだ。
それでも尚、私は繋いだ手を振りほどけなかった。
優しく絡まる指先も、痛いくらいに握られた手も私は覚えている。
願うように自分の手を組んで力を入れた。
「それでも放って置けなかったのはお節介で。淵くんが『一緒にいて欲しい』って言ったからで。望みを受け入れたいって私が思ったからなんだよ」
咎める必要があるとするならば、恋人関係を深く考えていなかった私の愚かさだけなのだ。
それも結局は受け入れようとしたのだからどこにも責めだてする事も出来ない。
「淵くんが悪いって言うなら私だって悪いんだよ」
どちらかを責める必要など、どこにも無いのだ。
「わっ、私だって淵くんの事……好き。なんだから……ね……?!」
彼は私の言葉を受けて何度か瞬きを繰り返した後に、目を細めて微笑んだ。
そうして、その緩めた口元から紡ぐ音は今まで以上に優しくて
「……千花」
「っ?!」
心臓が止まるかと思った。