神様には成れない。
「……」
「うぅっ……」
戸惑っている様子の私を観察するかのように、黒い目を此方に向ける。
不意に名前を呼ばれた事、ジッと見られている事の恥ずかしさも相まって、その視線から逃げる様に顔を反らしてしまう。
向けた先は只々白い壁があるのみで、そこを凝視するしか出来ない。
「昨日もそんな感じだったんだ?」
「昨日、って……」
言葉を復唱するのみで、該当する事を浮かべる事すらままならない。
「だって、昨日も千花って呼んだんでしょ?」
「千花っ、て……」
「瀬戸さんがさっき言ったんじゃん」
言っただろうか。言ったような気がする。
それよりもまず落ち着けと息を大きく吐いて、息を吸う。
「だ、だからって、急に呼ばれるとビックリするよ」
努めて平静に、それでも顔は壁の方を向いたままで全くもって説得力などない。
名を呼ばれたくらいで動揺するなど、中学生みたいだ。大人にならなければならない。何て事もないようにしてしまえ。
「なら、昨日はどんな風に呼んだの?」
「どんな風って……」
「最低だとは思うけど、瀬戸さんと一緒に居た事ちゃんと覚えてないのって嫌じゃん。昨日の俺は狡いなぁって」
『狡い』と最近の彼は時折口にする。昨日もそう言っていた。
今日は自分自身を狡いと称している。自分を狡いと思うだなんて、彼はよっぽど嫉妬深いのか。
「っ――!」
嫉妬。これは嫉妬なのだろうか。自分で自問して、ドギマギしているだなんて世話ない。
いや、でも確かに昨日の彼自身もそう言っていたのだ。
『きっと明日の俺は今日の自分に凄く嫉妬してるんだよ』と。
『でも、明日の俺は今日よりも千花の事が好きだよ』と。