神様には成れない。
彼は私の手首から手を離して、近付く為にベッドに手をついて前屈みのような姿勢をとる。
「これが、今日の瀬戸さんとの秘密だよ」
「ん……」
そう言うと、コツリ、と額と額をくっ付けて目を閉じた。
それはまるで、何かを祈っているような、願っているような仕草にも見えて彼が目の前にいる事を、触れている事すら忘れて魅入ってしまう。
「……それでも、肯定してくれた事を否定したいわけじゃないんだよ。俺は瀬戸さんを否定したくなんかないんだから」
「うん」
矛盾を帯びた思考を告白しながら、まるで縋るようにまた私に身を寄せた。
キメの細かい肌に長い睫毛。黒い髪に温かい体温。カーテンの隙間から漏れる光が彼に当たり、儚ささえ持たせる。
「淵くん」
消えそう。
そんな事あるはずないのに、彼を繋ぎ止めるように名を呼ぶ。
「なに?」
当たり前に返答が返ってきて、何と声をかければいいのか分からなくなる。
彼は私の言葉を待ってくれているのか、静かに呼吸を繰り返していた。
一つ、二つ、三つ、呼吸が繰り返されて、不意に途切れる。
痺れを切らすように彼が私から僅かに離れて、目と目が合う距離まで止まる。
「あ、えと、何でもない」
「何それ」
微かに笑っても尚その位置から動くことなく、ジッと私と目を合わせている。
揺らぐ事のないその瞳は私だけを捉えていた。
力強い視線に何処か熱を孕んでいるような気がして、思わず逃げるように視線を外して身動ぎする。
「駄目、こっち向いて瀬戸さん」
「っ、」
「――……好きだよ」
囁くように声を掛けられると同時に両頬に温かい、いや熱い掌が触れて彼の方に向き直させられた。
あ、と思った時にはぎゅっと目を閉じていた。