神様には成れない。
黙ったまま、温い風が揺らす木々の音を耳にしていれば、僅かに瞼がもちあがる。
しかし、目は伏せがちのままで私を捉えることは無かった。
そうしてポツリと呟く。
「……あの子、前に付き合ってた子なんだ」
「……うん」
「最近偶然会ってから、その……」
言いづらそうに一度唇を噛んで、また開く。
「付きまとわれてる、ような感じで。でも、それだけで、何かあるわけじゃなくて……でも俺、瀬戸さんに、」
「あ、あの、淵くん」
途切れ途切れに話してくれようとする彼を制止してしまう。
名を呼んでも尚、持ち上がらない瞼はどんな私の言葉であろうと受け止めようとする覚悟すら持っているように見えた。
しかし、そうではないのだ。私は彼に弁解を求めているわけではない、疑っているわけではない。
仁菜ちゃんと一緒に居た理由だけが気になっていただけで、それは今の一言だけで解消される単純な物だったのだ。
「私、淵くんを疑ったわけじゃないから、大丈夫だよ。そう言う理由があったんなら、」
「っ、違う!そうじゃなくて……!」
「!?」
「そう、じゃないんだ……」
僅かに荒げられた声と、俯いたまま横に振られる首。
そこから絞り出すように出された声はとても弱々しくて、苦しそうでもあった。
「――……俺をそんなに簡単に信じないでよ」
頬に触れていた手はするりと力なく落ちた。