神様には成れない。


「元の原因が俺にあったとしても、今、瀬戸さんは来宮さんの事に関して俺の前じゃ泣かないでしょ?」


だって、それは彼を困らせてしまう事だって分かっている。

どんなに泣きたくったて理不尽だったって、私は淵くんとあの公園に行くことになった出来事に対しても彼に愚痴すら零さなかった。それとこれは同じ事象なのだ。

何も言えないままに、口を堅く結ぶ。


「あの後に連絡が来たのが佐伯からで、瀬戸さんはここに居るって教えてくれたんだけど、二人で一緒に居るんだと思って」


何故ここで佐伯くんが出てくるのだと疑問に思うも、そもそもが此処に彼が辿りつけたのが不思議なのだ。

闇雲に探して探し当てたのなら感嘆に値するけれど、そうではない事は彼自身が今言った。

それを踏まえて考えれば莉子ちゃんが小さな声で発した「時間切れ」と言う言葉。あれは私の気づかぬ間に佐伯くんに連絡を入れていたからなのではないだろうか。

結論付けて、私も今一度否定しようと口を開きかけた所で、声は引っ込む。


「――……そう思うと凄く嫌だなって」

「ふち、くん……?」


唐突に告げられる独占欲のような言葉に照れが生じたとか、そんな淡い感情ははない。

彼の雰囲気が明確に変わったのだ。黒く、暗く、じわりと忍びよるそれは確かな負の感情。


「俺、瀬戸さんがいないと駄目なんだ。きっと俺の前で泣いてくれてたら今すぐ家に連れ帰ってた」

「ねぇ、何言って……」

「でも、最近瀬戸さんと居ても歯止めの効かない事もあって」

「ちょっと待って、」

「ずっとずっと、俺の傍に居てよ。何処にもいかないで。誰も好きにならないで。誰にも優しくしないで」


今までだって似たような主旨の言葉は私に言った事がある。しかし、説明し難い今までとは違うその圧に頭がクラリ、と揺れた。

何処か様子のおかしい彼に恐れを成して、無意識に後ずさる。

それでも、震える声を押し出す。


「わ、私淵くん以外好きになったりしないよ?でも……」

「それなら、ねぇ、瀬戸さん、」

「――でも、淵くんのそれは、その感情は、私の事が好きだからじゃないよ……」


彼を宥めようと押し出した声が別の言葉を引きつれていただなんて、私自身ですら気づけなかった。

目の前の彼に対する混乱、その前に莉子ちゃんに言われていた言葉、京ちゃんとのやり取り、それらは私の頭を確かに掻き乱していたのだと自覚させられた。


< 372 / 488 >

この作品をシェア

pagetop