神様には成れない。


ここに何かがあるわけでは無い。むしろ何も無い。

それが私にとって良かったのかもしれない。

川のそばに腰を下ろして指先で水に触れる。夏でも冷たいこの水は今の暑さを冷やしてくれた。

指先から冷たさが伝わって全身を巡り頭を冷やす。


「……」


何回も、何十回も考えたこれからの行動。それでもずっと出せなかった答え。

車の音も、人の声も、喧騒も、殆ど何もないこの場所ならゆっくり考えれるかも、なんて淡い期待を抱いていた。

でも何も浮かばなくて、あっちに居ると感じなかった夏の臭いがするなぁ、なんて別の事を考えていた。

彼にもこの感覚は伝わらないのだろうな、なんて。ふと思い出してしまう。


『雨の匂いがするね。もうすぐ雨が降るかもしれないね』


梅雨に入る前に、僅かながら土臭いような匂いを鼻先で感じ取ってそう何気なく彼に言ったのだ。

しかし、それは彼には通じなかったようで曖昧に笑って首を傾げていた。

言葉にするには難しいこの感覚もきっと伝わらない。


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