神様には成れない。


伝わらないけれど、彼は歩み寄ってくれるのだろう。

梅雨に入る前には『紫陽花が咲いてるね』と分からなかった嗅覚を視覚で補ったように、今度は『入道雲が良く見えるね』なんて言ってくれるのかもしれない。

私はそんなところも好きだった。

同じものを食べて、同じものを見て、同じように感じて、それでも足りなかった所を補ってくれる。

私はそれだけで良かった。

そう、それが良かったのだ。


「……」


ふと視線を上げれば、澄んだ川に流れていくポイ捨てされたであろう空き缶。

只綺麗な物だけを見ている事など出来ないのだ。綺麗じゃないものだって醜いものだって目に入る。

それなのに私は目を逸らしたのだ。彼のあの感情から、その奥に潜んで隠れていた“彼女”から。

同じように彼だって逃げているのだ。私から“彼女”を隠していたのだ。

前を向いたと思っていた事象は、俯いて目を閉ざしていたにすぎなかったのかもしれない。

だから私はまた、いや、ずっと今まで“嫉妬”を続けていたのだ。

あの日に感じた黒い感情の正体はそれだった。

それと同時に、感じた恐怖のような負の感情は彼が彼では無くなってしまったような気がしたからだ。

淵くんの事を全て語れるだなんてそんな烏滸がましい事は言えないけれど、確かに感じ取った恐怖はいつもの彼とは違うと断念できる。

私を一番に想っているととれるけれど、間違いなく食い違いを感じたのだ。

縋るような、寄りかかるような。


――……逃げていたような。


言葉に表すのなら“依存”と呼ぶのが一番近かっただろう。


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