神様には成れない。



話にひと段落させれば、私が充電器を買いに出掛けようとしていた事を思い出したように、「引き止めて悪いんだけど、とりあえずこれ使って」とモバイルバッテリーを貸してくれる。


「もう一つ言いたい事あって」


と、どうやらまだ話はあるらしいので、それをありがたく借りることにして、携帯に繋ぐ。

京ちゃんは暫し自分の指を指先で弄んでから、ボソボソともう一つの話を始める。「淵くん」と一言、話の趣旨であろう人の名を出す。


「殴っちゃったの謝りに行ったの、千花に連絡取る前に」

「あれ?でも京ちゃん淵くんと連絡取れたの?」

「うん……あの日の夜、偶々佐伯……佐伯くんに会ったから。その繋がりで」


私が莉子ちゃんに偶然会ったように、京ちゃんは佐伯くんと会っていたらしい。広い街である筈なのに狭い街だ。

そう言った義理もないだろうけれど、莉子ちゃんから連絡を受けた筈の佐伯くんが此方に来なかったのも彼に誤解を与えるような連絡だけしてしまったのも、京ちゃんと一緒に居たからなのだとすれば納得がいく。

彼女はその時に佐伯くんの連絡先だけを貰ったと告げる。


「みっともない顔してたの、心配してくれたみたいでさ。……散々酷い事言ったのにね」


と僅かに後悔と嫌悪を表情に出して、今はその話ではないと首を振る。


「それで、とにかく謝ったの」

「淵くんは何て?」

「『いいよ。来宮さんの言う事も最もだったんだから』って、ヘラヘラ笑ってたわ」


とりあえず、関係が拗れたわけではない事にホッとするも京ちゃんは言い淀むように視線を下に落とす。

何かを言おうとして動く唇は、何も語らない。


「京ちゃん……?」



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