神様には成れない。
『俺に何かあっても瀬戸さんが家まで来てくれるね』
と以前に言っていた事を持ち出すのであれば、その言葉に甘えてもいいけれど、一般的に考えて此処で暫く待つのが妥当だろう。
「あの、どちら様にご用でしょうか?」
「へ?!」
不意に後ろから声を掛けられて、慌てて振り返る。少しばかり疾しい事を考えていただけに動揺してしまう。
見れば、初老の男性がそこに居て訝しげな視線が此方に寄せられていた。
気を取り直すように首を振って、努めて冷静に見えるようにゆっくりと答えた。
「すみません。かれ、……知り合いに用事があったのですが留守みたいで」
彼氏、と初対面に人にわざわざ説明するのもどうかと思い言い直す。相手の男性は納得いかないのか次いで視線を私の手元に向けた。
「見た所、手に持ってるのは部屋の鍵かと思うのですが、どなたに?」
「えっ?えっと……」
「失礼。申し遅れましたが、私、此処の管理人をやっていまして」
「へっ?あ、ああ!そうだったんですね!」
知らない人に問い詰められる事に僅かに恐怖と警戒心があり、それが表情に出ていたのか相手の男性は身分を明かすと共に、管理人のネーム札まで見せてくれた。
そこで私も漸くホッと息を着いて、肩の力を緩めた。