神様には成れない。
言葉に反応する前に、どういう意味かと問いかける前に、管理人さんは続け様に話し出す。
「実は、淵さんにもし瀬戸さんが訪ねてくる所に遭ったら、エントランスに通して欲しい。と言われているのです」
「それって、私の事管理人さんは知らない……ですよね?」
「ええ、もちろん。それは淵さんにだって分かっていた筈なのですが、どうしてもと仰るものですから形だけですが了承したのです。まさか実際にお会いすることになるとは思いませんでしたが」
と、目元の皺を一層深めて何処か感慨深げに笑う。
そうして管理人さんは、私が頼まずともエントランスのドアを開ける作業に入る。
「あの……管理人さんと淵くんってどういう関係なんでしょうか?」
一住人に対しての行動だけにしては、入れ込んでいるような気がして問いかけるも、管理人さんは笑い飛ばすように言った。
「どんな関係も何も、そのままの関係ですよ」
管理人と住人だと主張をする。
その時軽快な電子音が響いて扉は開けられた。
「ただ、あの子は殆ど我儘を言わないし優しい子だから放って置けないんです」
「え?」
「梢ちゃんに代わって、あの子の事よろしくお願いしますね」
「えっ?あの……!!」
引き止めようとするよりも前に柔らかく私に微笑み、踵を返していく。
追いたくなる気持ちもあったけれど、開けて貰った扉をまた閉ざしてしまえば本末転倒だと理性がそれを抑制する。
「……」
結果として管理人さんが去っていくのを見送ってから、私はエレベーターへと乗り込んだ。