神様には成れない。
私が何も発する事なくただただ口内の唾を飲み込めば、月乃ちゃんはそれを肯定と取って話を進める。
一つ、大きな溜息。
『兄が……ナナが変な行動を取るときは仁菜ちゃんが絡んでいる時でしたから。きっと、逃げたんでしょう、彼女から』
「でも、私も淵くんに酷い事を言って……」
『いいえ、ナナにとってそんな事は些細な事なんです』
何故そう言い切れるのか。
今でも彼を傷つけてしまった瞬間、あの表情を思い出せる。
ギュウッと服の胸元を握りしめて唇を噛みしめる。
『ナナは好きな子には甘いんですよ。理想の彼氏だ、なんて賞賛の声がある反面依存してるとも言われてましたから。……これはお互いそうでしたが』
「……っ、ならもしかして淵くんは、」
『弱気ですね』
仁菜ちゃんと一緒にいるのでは。と言いかけて、すかさず彼女が制止するように声を漏らす。
『しかし、それはナナもそうですね。見目ばかり見てる人は知る由もありませんが、女々しい人間ですから』
クスクスと笑い声を溢したかと思えば、改めて『千花さん』と名を呼ばれる。
『貴方を好きだと言ったナナはそんなに不誠実な人間でしょうか?』
「!」
弱気になって変な方向に走った思考を彼女が引き留める。
怒りも悲しみもないその純粋な問いは私をハッとさせるのに十分だった。
そしてまた、答えは必要ないと言うように続けた。
『とは言え、何も言わずに音信不通にするなんてフられても文句も言えませんね。その時はその時で自己責任ですが』
そんな事を言ってみせたかと思えば、月乃ちゃんは一間あけてから静かに私に告げた。
『――兄が行きそうな場所の目星はつきます』
「それって、」
『しかし、それを貴女に教える事は出来ません』
確かな強い意志を感じるハッキリとした言葉。
拒絶に近くすらあったのかもしれない。