神様には成れない。
「ごめんね、瀬戸ちゃん」
ふと、彼女は謝罪を述べる。何に対しての謝罪なのか分かりかねて隣を見遣れば続きの言葉が紡がれる。
「私が最初に淵くんの事に気づいていればもっと……って言ってもどうにもならなかったかもしれないけど」
それでも、と続ける。
「あの子がこうやって淵くんに執着しているのなら……――ごめんね瀬戸ちゃん、本当に切り捨てたっていいと思う」
「――……」
二度、三度、何度も同じような事を言う事を申し訳なく思うのだろう、困ったように眉を寄せて、それでも力強い瞳で私を見つめて来る。
それが、誰だって最善だと言うのだろう。
連絡が付かなくなってしまった彼を追う必要はないと、連絡が取れなくなってしまう程に逃げた彼を見て今目の前の状況を受け入れろ、と。
「いい?瀬戸ちゃん。こんな噂に振り回されるなんて馬鹿らしいけど、私卒アルで二人の写真見た時に木嶋君に聞いたの。あの子、淵くんの元カノはどんな手を使っても淵くんを自分の手に戻すって」
「……」
「元々大人しかった彼女がそうしてしまう程に、淵くんには影響力があって。だから、今回だってそうかもしれない」
引き戻すようにぐっと、彼女は私の手を引く。
「……莉子ちゃん」
それは彼女なりの優しさであるのだと分かっている。きっとそうしてしまえればさっきみたいな嫌な想いなんてしなかった。
でも、不意に思い出すのは私に告白してくれた彼で。私の手を掴んでくれた彼で。
手を繋ぐ事の意味なんてもうとっくに引き止める為ではなくて、同じ歩幅で歩くためだった。
ゆっくりと、彼女の手にもう片方の手を合わせた。
「ありがとう。莉子ちゃん」
そうして、手を解いた。