神様には成れない。


目的もなく園内を歩いていると、気が付けば水辺の場所へと差し掛かっていた。

まだ開花時期が早いのと午後の時間帯になってしまっているので、水辺に咲く筈の睡蓮の花弁は閉じてしまっている。

此処より向こうのエリアにあるのは違う水植物なのか、目を凝らせば花が咲いているのが確認できた。

そんな場所だが彼は水辺の縁に屈んで足元に視線を落とす。

私も同じようにして同じ場所を見れば、何故か一輪だけ花が咲いていた。

偶然なのか、よく気が付くのか、見逃してもおかしくはなかった。


「……でもやっぱり今も覚えてるのが公園に行くようになった日の事でさ、あの事が無かったらやっぱりそこまで関わろうとも思わなかったかな」


ポツリと、不意に先の話の続きのような言葉が落とされる。


「……」


あの日、あの事。覚えはいるけれど、自分の事なので黙ってしまう。

私が声を掛けて一緒に帰るようになった。とだけ言えば簡単だけれど、それには背景も存在したのだ。


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