神様には成れない。
「大層な事だよ。だってバイト終わった後急に『ジュース奢るから寄り道しない?』って言い出すから、やっぱり怒るのかな、泣くのかなって思ってたのに最後までそんな話しないで大学の話。普通は出来ないって」
「う……」
そうではない。そう良く言われる話ではないのだ。
私は私の精神衛生を正常に保つ為にその日一緒に入っていた彼を誘ったにすぎない。
「違うの……理不尽って思ったし、泣きたくもなったよあの日は。でもそんな風に言ってもらえる事じゃなくて、ただただ、嫌な思いした分小さなことでも押し付けでも人に良いことをした気分になって、優越感に浸りたかっただけで」
「へぇぇ……」
あの日の私の打算に感嘆のような声を出し、パチパチと瞬きを繰り返す。
「瀬戸さんってほんと真面目だよね。言わなきゃ、『ジュース奢ってくれた良い人』って思われるのに」
「淵くんはそんな事思わないでしょう?」
「あは、そうだね」
ふざけるようにおどけて見せるけど、彼の言いたい事は何もたかが百数十円の話だけではなくて、もっと大きく見た時の話なのかもしれない。
自分を卑下してまで、損する事になってまで要らない口を開く必要はないという事だろうか。
「それでも、愚痴一つ溢さなかった瀬戸さんは凄い人だよ。偉い偉い」
「あ、ありがとう?」
それなのに彼は私を“良い人”であるように仕立てるのだから対応に困ってしまい、首を傾げた後に、彼から顔ごと背けて花弁が閉じたままの睡蓮を見ているふりをしてみる。