神様には成れない。
待ち合わせの目印によく使われそうな、オブジェの傍のベンチ。彼は其処に座っていた。
周りを見渡しているわけではなく、所在無げに彼の前を通る人をただただ見ている。
時折淵くんの方を見る人もいて、彼の視線の高さ的に言えば目すら合っている筈なのに気にする風でもない。
人を、私を待っているのだから暇そうにするのも致し方ないのだが、何故だかその姿が寂しげに見えてしまった。
きっと、それも気のせいなのだが。
いつまでもここで立ち止まって居ては、彼を待たせることになるだけなので、私は一歩足を踏み出す。
一歩また一歩。確実に近づくのに、気づく様子もない。声を掛ければ聞こえそうな距離でも気づかない。
本当に周りを見ていない。いや、見る気がないのかもしれない。
「――淵くん。お待たせ」
「あ、お帰り」
「……ただいま?」
だから、私が声を掛けて漸くどこかに行っていた視線を意識を取り戻したのだろう。