神様には成れない。


ガサッと手元で音が鳴り、彼の手元に視線を移す。

自らの膝の上にそれを移動させて、そのままプラスチックの蓋を開けるのかと思いきや、手元の動きは止まった。


「ねぇ、ちゃんとフォーク貰ってきた?」

「貰ってきてるよ?ほら……あれ?」


私の手元に残されたビニール袋の中に手を入れてみても、思っているような物には行き当たらない。

それどころか、ひっくり返してみてもガサガサと音がするだけで何も落ちてすらこない。


「あーあ、瀬戸さん忘れてるじゃん」


結果を淵くんに告げられて、頭を抱えたくなる。

急いでいて確かに確認などはしていなかったけど、入れてくれているものだと思っていただけに迂闊だった。

これではただただ急に走り出してケーキを買ってきただけにすぎない。只の奇行がより際立ってしまっていた。


「瀬戸さんも最初の頃は特によく忘れてたよね」


調子を取り戻したかのように、皮肉めいた言葉をいつものように愛想の良い表情で言ってくる。


「う……」


事実なことに反論など出来なくて唸り声をあげる。

ただただ少し前の私を恨むしかない。


「ご、ごめんね。意気込んでお祝いしようとしたくせに……日を改めてまた今度に……」


と、情けなさに立ち上がり、仕切り直しを早口に告げようとした時


「っ?!」


私が彼を引き留めた時のように、今度は彼が私を引き留めるように腕を引かれた。

引く力に比例するように私の手の力は抜けて、手から紅茶が滑り落ちる。カコンと音が闇夜に響き、一間の呼吸が開けられた。


「――じゃあ、今から家に来てよ。瀬戸さん」

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