モテ男子が恋愛したくない私に本気をだした結果。
「天野くんさ、この状況を見て、まだ分かんないの?」
いつも笑顔の歩優が、真顔で蒼井の隣に立ち、伊吹を見据える。
その後ろで、私の手をつないだまま。
「莉世はあんたと話すことや、関わることを望んでない。ただでさえ、莉世はずっと苦しんでる。苦しんで苦しんで、私達じゃ到底理解できないくらい自分を追い詰めてるの」
強く、強く手を握って。
「…………」
「それに、あんたが追い打ちをかけてるって分かんないの?あんたがこうやって話しかけて来る度に、怯えて、震えて、一層つらい思いをしてる。なのに……どうしてそうやって、莉世を苦しめたり、追い詰めようとしてるの?」
「それ、は………」
「苦しいのはあんただけじゃない。1番苦しんでるのは、莉世本人なんだよ?莉世の気持ちを無視して、自分の気持ちだけを一方的に押し付けようとしないで」
あ、ゆ……
歩優の言葉にポロッと涙が零れた。
「………」
伊吹は何も言い返せないようで、顔を歪めてぎゅっと唇を噛み締めている。
「この子は今、蒼井くんのおかげで一歩ずつ前に進もうとしてるの。少しずつ、少しずつ前を向こうとしているの。なのに、あんたはいつまでそこにいるの?いつまで後ろを向いているの?
あの頃の楽しかった日々はどう頑張っても、どうあがいても、その気持ちにケリをつけない限り、もう二度と戻ってこないんだよ」
「これ以上莉世に近づいて、莉世を苦しめるつもりなら、蒼井くん共々、私だって黙ってないから」
「それと………」
「こんなことを続けてる限り、あんたは前に進めない。それに、あの子が絶対喜ばないことは、あんたが1番分かってることでしょう……?」
「っ……」
「行こう」
そう言った歩優は私を見て、強く頷いた。
「天野、覚えとけよ」
そして2人にそっと優しく背中を押されて、私は伊吹の方を見ずに歩き出した。