モテ男子が恋愛したくない私に本気をだした結果。
「あま……」
「あっ、伊吹くん!!」
伊吹くん!!?
天野と言いかけようとした瞬間、まるでそこに花が咲いたかのように、にっこり笑って天野に駆け寄る莉世……じゃなくて、莉香ちゃん。
驚きで固まるしかない俺。
本当に、莉香ちゃんがいるみたいに見える……
外見は莉世のまんまなのに、話し方や笑い方、仕草が前に会った莉香ちゃんを思い出させる。
「伊吹くんも、どうしたの?
莉世なら今、家にいないけど……」
「っ!!」
天野は驚いて目を見開き、固まる俺の方をチラッと見た後、莉香ちゃんに話しかける。
「いや、莉世に会いに来たわけじゃないよ。
たまたま通りかかっただけ」
天野は優しく微笑んでいるはずなのに、でもどこか切ない顔で、にこにこする莉香ちゃんを見ている。
目がゆらゆらと揺れて、莉世や和栗も時折見せていたのと同じ、苦しそうな表情。
こいつも……
ふと、いつしかの天野と莉世が2人で話していた時のことを思い出した。
俺が委員長から天野の話を聞き、莉世を探していた時に、中庭で2人が一緒にいたのを見た時。
そういやあの時も、その場にいるのは莉世のはずなのに、今思えば、どこか莉香ちゃんがそこにいるみたいな感じに見えたっけ……
「そうなんだ!
とりあえず雨もひどいし、うちに……」
そう言いかけた途端、また首がガクンと下に落ちて、ふっと意識を失う莉香ちゃん。
「莉世っ!!!」
ふっとその場に崩れ落ちそうになった莉香ちゃんをギリギリの所で受け止めた天野。
「蒼井」
「……なに」
「とりあえず、莉世を家まで連れてく」
「あ、ああ……」
そう言うと、莉世を抱き上げて家の方向へ歩いていく天野。
今、確かに莉香じゃなくて、“ 莉世 ”って……
莉世?
莉香ちゃん?
俺の前にいたのは、本当はどっちなんだ……
あーもう、全然分かんねー……
髪をグシャッとして、とにかく今は莉世の体が最優先だと考える。
もし莉世がずっと俺に隠していた過去のことが、これと関係あるのだとしたら、やっとその真実を知ることができるかもしれない。
やっと、それを知る時が来たのかもしれない。
でも俺は、たとえそれがどんなものであったとしても、好きなのは変わらないし、莉世の傍にいるって決めた。
今度こそ、後悔しない。
俺が莉世を支える。
俺が全部受け止めるから。
改めて強く心に言い聞かせて、急いで天野の後ろを追いかける。
ああ、こいつも……
莉世や和栗と同じように、ずっと苦しんできたんだな……
それが分かるくらい、天野の後ろ姿は、いつもの威圧的で余裕そうな態度ではなく、とても悲しそうに見えた。