モテ男子が恋愛したくない私に本気をだした結果。
「何?
今、お前と話してる時間ないんだけど」
振り向いて、あからさまに嫌な態度を取る俺に、天野はふっと笑う。
なにこいつ……
いちいちカンに触ってしょうがない。
「だから言っただろ?
莉世に近づくなって」
「は?」
「今も莉世のこと探して屋上に来たんだろ?バカじゃねーの。結局莉世は、お前に心を開くことはできなかったのにさぁ?」
そして何がそんなにおかしいのか、ニヤリと笑う。
「俺は莉世のためを思って言ってるんだよ。
誰かに心を許そうとする度に、莉世は傷ついて……」
さっきから黙って聞いてれば……
その瞬間、俺の中でブチッと何かが音を立てた。
「莉世のためを思って?
傷つく?
────お前、どの口が言ってんの?」
ツカツカと歩み寄り、ガッと胸ぐらを掴んだ。
「っ!!」
こいつのムカつく顔を見る度に、莉世のつらそうな顔が思い出される。
莉世は莉世。
莉香ちゃんは、莉香ちゃんなのに。
なのにこいつは、いつまで経っても……
「は、はぁ?蒼井こそ、何言って……っ!!」
「お前さ、莉世がどんな気持ちで今までお前と接してきたか、分かってんの?自分のせいでお前が変わってしまった、苦しいのはお前も一緒だって、ずっと自分を思い詰めてきたんだぞ」
「そ、それはっ……」
「莉香ちゃんの面影を探して、莉世が苦しんでる所に漬け込んで。挙句の果てには、その時間を楽しもうって?ふざけんなよ。その行動が、莉世をどれだけ苦しめてんのか分かってんのかよ!!」
「っ〜!!」
何も言えず、胸ぐらを掴まれ苦しそうに顔を歪める天野に、俺は追い討ちをかけるように続ける。
「お前は、莉世に莉香ちゃんを重ね合わせているだけだ。和栗も言ってたけど、ただ逃げてるだけじゃ、いつになっても前には進めねーんだよ。この状況が良くないことは、本人が1番分かってる。だから俺に、勇気を出して、嫌われる覚悟で話してくれた」
「俺はこの先、何があっても莉世から絶対に離れない。アイツのためなら、なんだってしてやれる」
「───逃げてるだけのお前と一緒にすんな」
「うっ……!!」
ドンっと押すようにしてシャツを離した後、俯き唇を噛み締める天野を、最後にもう一度睨み返した。
「それは今までの莉世の痛みだ。
正直そんなんじゃ全然足りねーけど、莉世を悲しませたくないからこの辺でやめとくわ。
─────じゃあな」
そしてもう後ろを振り返らずに、バタンと音を立てて屋上から出た。