モテ男子が恋愛したくない私に本気をだした結果。
思わぬ言葉に目を見開き、謝ろうと下げた顔を上げる。
あれ、この人……
ツヤツヤとした黒髪に、綺麗な顔立ち。
「あっ、ごめんなさいね。
赤の他人から急に名前呼ばれたら、そりゃあ驚くわよね」
俺がぽかんとしていたのが、不審に思っているのかと勘違いされたようで、女の人は慌てて謝った。
「急にごめんなさい。
私は莉世の母、莉代です」
「えっ!!?」
莉世のお母さん!!?
確かにどことなく整った顔立ちだとか、雰囲気は似ているけど、まさかそうだったとは……
けどなんで、俺の名前……
不思議に思ってると、莉代さんは微笑んだ。
「何度かウチからあなたが出ていくのを見たことがあって。それで莉世に聞いたの、あなたの名前」
「な、なるほど……」
確かに家に行った時、家の人とは誰とも会ったことはなかったけど、まさかそれを見られていたとは……
「蒼井くん、良かったら今から時間ある?」
「えっ、い、今からですか?」
唐突な提案に驚く俺。
莉世の知らない所で、彼氏でもないただのクラスメイトの俺が、勝手にお母さんと会ってもいいのだろうか……
鉢合わせした時に、気まずくなったらそれはそれで困るんだけど……
でもせっかくお誘いしてもらっているのに……
「莉世なら今日は歩優ちゃん家に遊びに行ってて、帰ってくるのが遅いみたいだから、大丈夫よ」
「えっ……」
そっか。
和栗の家に……
俺が悩んでいたのに気を使って下さったのか、そう言ってくれた莉代さん。
だったら、鉢合わせすることはないはず。
それに……
「俺も聞きたいことがあるので、じゃあお言葉に甘えてもいいですか?」
「もちろん」
そう言うと、莉代さんは嬉しそうに笑った。
あー、やっぱり似てるわ……
笑った顔とか、もうそっくり。
「このまま家に帰るつもりだったし、話は帰ってからでいいかな?」
「は、はい。
大丈夫です」
って、何狼狽えてんだよ俺……
莉世も将来、こんな感じになるのかなと思ったことは絶対に秘密だ。