モテ男子が恋愛したくない私に本気をだした結果。
「コーヒーで良かったかしら?」
「い、いえ……お構いなく」
それから家へとやってきた俺と莉代さん。
「ふふっ、男の子が家に遊びに来ることなんて、莉世が高校に入ってからはなかったから、嬉しいわ」
ってことは、天野は遊びに来たことがあるってことか……
まあ、莉香ちゃんと付き合ってたんだもんな……
そしてどことなく落ち着かない俺の前にコーヒーを置くと、ゆっくり座った。
「莉世は、学校で上手くやってる?」
「はい。
和栗さんとは相変わらず仲が良いみたいで、俺も結構話したりしてます」
俺の場合、話すっていうよりかは、最初の頃は完全にウザがられてたけど………
「そう……
最近莉世、いつも楽しそうで。はっきりとは言わないけど、きっと蒼井くんのおかげなのね」
「い、いえ、そんなことは……」
まさかどストレートに言われるとは思ってなくて、しどろもどろになる俺。
そっか、莉世……
その話に思わずドキッとする。
時折悲しげに笑うことはないわけじゃなかったけど、俺といる時はいつも自然に笑ってたと思う。
「蒼井くん」
「はい」
「蒼井くんは、何度かウチに遊びに来てるみたいだから聞くけど……莉世の中学の時のことや病気のこと、知ってる?」
「っ!!」
急に笑顔を消したと思ったら、まっすぐな目で俺に尋ねてきた。
娘を大事に思う母親。
そんな強い意志が込められているはずなのに、どこかそれは悲しみが含まれているようで。
「はい。ついこの間、莉世本人から聞きました。
莉香さんのこと、それと病気のことも」
ピリピリとした空気が流れる中、俺も包み隠さずきちんと返す。
「そう……
じゃあ、莉香が事故で亡くなったことは、もちろん知ってる?」
「はい」
強く頷くと、莉代さんは一瞬何かに迷うように視線を逸らした後、覚悟を決めたように口を開いた。
「今まで歩優ちゃん以外に……、ましてや天野くん以外の男の子に、莉世がその話をしたことは1度もなかったわ」
「そう、だったんですか……」
天野は言ってた。
心を開こうとするけど、過去のことを引きずっているせいでそれは難しかったと。