僕は雲になりたい
出会い
僕は、昔から家族以外と話す時は、性格そのものを変える。家では特に何も話さず、大人しい子供だと両親にも思われているだろう。
だが、物心ついた時から学校ではクラスの人気者、お調子者という立ち位置にいるようになっていた。
僕はそれを心地よくも思い、面倒だとも思っていた。
それでもクラスの端っこにいて、いついじめられるかも分からない人間と、仮面を被りながらもクラスの中心にいるのでは、圧倒的に後者の方が楽だと僕は思った。
小学校でも中学校でもそうやって生きてきた。もちろん高校も。いや、正確に言えば、高校2年生までだ。今まで仮面を被り続けて嘘の自分を演じて来たのに、突然1人の女の子に仮面を取られた。
彼女は、明るい女の子だったが、特に人気者とかではなく、普通の女の子。これといった印象はなく、僕も3年生で同じクラスになるまであまり知らなかった。肩にかかるくらいの黒髪で、身長も高いわけでもなく、低いわけでもない。本当に特徴が無かった。
彼女との初めての会話は、同じクラスになった日、3年生に進級した時。僕が黒板の前に張り出されている席順を見て、自分の指定の席に座ろうとした時だった。
「おぉ。」
僕の左後ろの席に座っている女の子が突然声を出した。気になったので声のする方に顔を向けると、僕の方を見てる。なんだ?何か僕が不思議な事をしたのか?いや、していない。ただ僕は自分の席に座ろうとしただけ。もしかしたら気のせいかもしれない。この子のことを構っても、僕に得になることはない。この子との距離は、近すぎず、遠すぎずがいいだろう。本当の人気者なら、誰とでも距離感は近いのだろうが、僕は違う。偽物だ。
無視して座ろう。そう思って僕は椅子に腰掛けた。
「ねーねー!」
また左後ろから声がする。これは僕に声をかけているのか?それとも別の人か?無視するのは良くないが、名前を呼ばれてない限り、僕は悪くない。大丈夫だ。
「おーい!柴田ー!」
案の定僕に声をかけていた。僕の名前だ。このクラスに柴田という名前の人は僕だけだ。面倒だと思いながらも、人気者として、そして人としても、無視はいけない。僕は振り返りながら、答えた。
「何?宮澤さん。」彼女の名前を呼んだ。今日初めて話したとはいえ、同じ学校で3年目ともなれば、名前くらい分からなければならない。とても面倒だが、人の名前を覚える事は昔から真面目にやってきた。彼女の用件は検討がつかないが、今日初めて話した人に何か特別な事は話さないだろう。それにここは教室だ。クラスの人達も聞いている。安心して彼女に耳を傾けた。
「1年生の時デートしたよね!」
え?明らかに僕は動揺した。絶対にしていない。名前と顔を覚えてたくらいで、会話をしたのは今が初めてだ。ありえない。彼女は一体何を言っているんだろう。人違いか?それとも僕ではない人に話しているのか?いや、彼女がさっき僕に話しかけてきたのは確認できた。なら人違いか?それともただのおふざけか?
僕は後者だろうと思い、軽い冗談で返そうと思った。
「したした!1年生の夏休みに入る前くらいだっけ?何?またしたいの?分かった分かった。また今度な!」
早口でまくし立てた。クラスの皆はもちろん聞いていて、男子はただ笑って、女子は驚いてる人も、笑ってる人もいた。
だが問題ない。僕がこうやって女の子に対してふざけた態度を取るのはよくあることだ。実際はなんとも思ってないし、周りの人達もそれは知っている。知らない子もいるだろうが、これから知っていくだろう。何も問題ない。そう思っていたが、予想外の答えが返ってきた。
「そう!そのくらい!よく覚えてたね〜。じゃー今度はGWくらいにデートする?」
意外とおふざけが得意なのかもしれない。普通なら、「は?しないしない!」などと言われて、僕が振られるというのがお決まりだった。これは意外だ。どう対処しよう。これはあえて僕が振る形の方が面白いだろうか。よしそうしよう。
「え?怖い怖い。しないよ。」
教室中に、またいつもの悪ふざけかよといった、笑い声が広がる。大成功だ。さすがは僕だ。鼻高々だった。彼女だけが不満気な顔をしていたが、別に気にならない。高校3年目の初日、まずはいい滑り出しだ。
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