僕は雲になりたい
3年目の高校生活
順調に3年目も過ごせる。そう思ったのは、クラスに特別に仲がいい人がいなかったからだ。普通の高校生なら特別に仲がいい人がいた方がいいと言うだろう。だが、僕は違う。そのような人がいない方が楽なのだ。仲がいい人と同じクラスになると、もっと関係が深まってしまう。それは僕にとってとても面倒。休日にはできるだけ家にいたい。とは言っても、それなりに外出しなければならないが、同じクラスにになるよりかは数段いい。優雅な気持ちだった。
担任の先生が来るまで少し時間があった。その間自分の席に近い人や、明るい人とまず仲良くなる。学校というものはとてもシビアだ。社会に出ればもっと苦労するのかもしれない。だが、学生にとって学校でいかに上手く生きるかがとても大変である。楽に生きてる人もいるだろう。でも僕は違う。とても楽にいれるような器を持ち合わせてはいない。
元々僕の事を知っていた人が多かったので、とても楽に溶け込めた。
担任の先生がやって来て、明日からの授業の事や、3年目の学校行事、それぞれの自己紹介を淡々と進めて、初日が終わった。
放課後、帰り道が同じ方向の友達が数名駐輪場で待っていた。
「どうだった?クラス」
1人の友達が聞いてきた。
「俺のクラスだけ全然お前らいねーじゃん!本当ついてないよ」
嘘だ。心の中では真逆の事を思っている。
僕はどちらかといえば男というより女の人に似ているのかもしれない。外見とかではなく、考え方が男には程遠い。なぜそうなったのかは僕にも分からない。でもこうやって生きてきたのだから仕方ない。
いつも通り適当に話して帰宅している途中に、皆でご飯を食べに行こうという話になった。今日はそんな気分にはどうしてもなれない。3年目の初日から面倒は嫌だ。
そう思った僕は、上手く断った。簡単だ。全ての誘いを断っているわけではない。怪しまれない程度に断ればいい。僕はそう思う。
1人になった僕は、明日からの事を考えて、爽快に自転車を漕いでいた。
踏切で僕が止まっていると後ろから同じ高校の制服を着た女子が自転車を漕いでやってきた。別に不思議な事はない。特に気にする事なく、踏切で電車が過ぎるのを、心臓にまで響いてくるような警戒音を聞きながら待っていた。
「今年は同じクラスだね」
すぐ後ろで声がしたので振り返ると、今日クラスで話しかけてきた、不思議な事を言う宮澤さんだった。
「あー、まぁ同じクラスはそうなんだけど、俺って宮澤さんと接点あったっけ?」
僕にはまるで心当たりがないので本当に不思議だった。
「1年生の時に一緒に下校した事あると思うよ。でも1回だけだったし、それ以降は関わりはないかな〜」
いや、無い。何を言っているんだろうこの子は。ふざけているとしか思えない。
「本気で言ってる?それ本当に俺?」
ちょっと、苛ついてきた僕は少し声が低くなった。
「いやちょっと怖いって。でも本当だよ!間違ってないし、それって間違えるもんなの?」
彼女はいたって普通に言ってくる。これがもし本当だったとしたら、僕は人として最低だ。いやそれ以前に、僕は記憶喪失か何かなのかと疑いたくなる。
「いや、本当ごめん。覚えてない。」
僕は申し訳なくなってきた。
「いいよいいよ!いつか思い出してくれれば!まぁ1年生の時だし、1回だけだからね〜。しかもそれ以降話したりもしてないんだよ?忘れてても仕方ないよね〜」
彼女は少し笑っていた。
ちょっと可愛い。
「うん。思い出したら報告するよ。そしたら思い出話でもしよう。楽しみだな〜」
危ない危ない。危うく彼女の少し恥ずかしそうに笑う姿に持っていかれそうだった。
「いや全然心こもってないから」
さっきよりも大きく笑った。
やっぱ可愛い。
「好きです」
、、、、、、は?え?
彼女はきょとんとした顔をしていた。当然だ。その顔を見て冷静になった。
「ん?どうした?」
あたかも何も言ってませんよと言う顔と言葉で僕は誤魔化そうとした。幸い踏切の警戒音が鳴っていたので、丁度良かった。
「今好きですとか言ったでしょ?」
後ろにいた彼女が、僕の横に来て話しかけて来た。これはまずい。
「あ、ちがうよ。今好きですじゃなくて、踏切ですって言ったんだよ」
「いや、どーいう事」笑いを堪え切れないといった様子だ。
「いやだから、踏切があるから踏切ですって言ったんだよ」
「あほか」
踏切が開いた。いいタイミングだ。
「よし行こう」
逃げるように僕は自転車を漕ぎだした。
「あ、待って待って」
彼女は僕についてきて言い放った。「さっき私に告白した事絶対忘れないからね〜。明日から高校3年生楽しもうね!」

、、、、、、終わった。
僕の3年目の高校生活は、、、終わった。

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