僕は雲になりたい
恋人
電車で現地に向かう途中、色々考えさせられ、気づいたらもう集合場所に着いていた。クラスごとに集まるみたいだ。
それにしても、学校の行事で私服が許される時に、それぞれ人の性格が分かるような気がする。お洒落ではあるが、無理はしてない感じに見える人。この場合普通に楽しもうといった、まさに普通の性格だと言える。だが逆に、お洒落ではあるが、今日という行事に気合が入っていて、多少無理をしているような感じがする人。この場合は異性から注目を集めようと思っているか、同性の友達に馬鹿にされたくないと言ったところだろうか。小学生のような性格だが、高校生になってもそのような性格の人はいる。そして、明らかに年相応の格好じゃない人。僕としてはこのタイプに一番好感を持てる。周りを気にしない上に、近づきやすい。文句なしだ。どう思うかは人それぞれだが、あくまで僕の意見。僕は周りからどう思われているのだろうか。などと考えていると、いつものように楽しげに声をかけてくる人が一人。
「おはよう!」
そう、彼女だ。僕は彼女を見て、笑ってしまった。
「何笑ってんの?なんかあった?」
こちらの台詞だ。僕が笑ってしまった理由は、彼女の服装。赤いハイヒールに、白いドレス、手にはこれまた赤いクラッチバッグを持っていた。彼女はこれから高級レストランに行くのだろうか。それとも何かのパーティにでも呼ばれているのだろうか。それとは対照的に全く化粧っ気のない顔。髪も何もアレンジをしていなかった。いつも通り肩にかかるくらいの黒髪をなびかせている。彼女は一体何をしたいのだろう。
「いやこっちの台詞だよ。どうした」
「え?何が?」
「ふざけてるのか、真面目なのかどっち?」
「何のこと?」
彼女は本当に僕が何に笑っているのか分からないらしい。
「いやあのさ、服だよ服。どうしてそんな格好になるわけ」
「え?嘘?変?」
「変というか、その格好をして来る場所が違うというか」
「何それ。どーゆーこと?」
彼女は少し馬鹿である。薄々思ってはいたが、馬鹿である。
「まぁ自分が良ければいいんじゃないかな」
駄目だ。本人に自覚がないと知ると更に面白い。
「私の魅力にやられた?」
「ははは。え?何?魅力?あー、ははは。やられたやられた」
「でも襲っちゃだめだからね」
「誰が襲うか」

そうこうしているうちに、3年生が全員集まったみたいだ。
それぞれ自分のクラスの担任にチケットをもらい、各々が自由に入って行く。同性の友達同士、異性も混ざった仲がいいグループ、そして、、、「カップルでテーマパークか〜。ドキドキするね」
無視しよう。そして、カップル。皆とてもいい笑顔で楽しそうに入って行く。僕の隣にいる人も楽しげだ。僕だけが憂鬱な顔をしている。
「とりあえずジェットコースターいっとく?」
とりあえずコンビニ寄る?みたいな言い方で、僕に聞いてきた。
「楽しそうだね」
「え?柴田楽しくないの?こんなに可愛い彼女とこんなに楽しげな所を一緒に回れるのに?」
「彼女じゃないよねって言おうとしたけど、今日だけ特別な」
僕は電車で、女子生徒に真っ当な意見を言われ、少し考え直した。だから今日は少し楽しく行こうと思っていた。
「またまた〜。毎日彼女だよ私は」
今日という日が暑いからだろうか、彼女の顔が少し赤い。そしてニヤニヤしている。ちょっと可愛い。
「はい」
僕は右手を出した。
彼女は何を思ったか、僕にテーマパークの案内図の様な物を渡してきた。やはり彼女は少々馬鹿である。
「いやちげーよ。左手早く出せよ。置いてかれてーのか」
「ん?はい」
彼女は首を傾げて左手を僕に出してきた。まだ分からない様だ。少々ではなく、結構馬鹿なのかもしれない。
僕はその左手をとって、世間で言う恋人繋ぎをした。恋人ではない人、しかもテーマパークが広いとはいえ、学校の人に見られる可能性もある。恥ずかしい。これが恋人だったら堂々といれる。だが周りから見れば恋人なのだから、堂々としてればいいと言えばそうなのかもしれないがやはり恥ずかしい。そんな僕の思いとは裏腹に彼女は満面の笑みで、その中に少し照れ笑いがあった。
「んー中々いいね〜。恋人っぽくなってきたね」
そう言うと、手を強く握っては弱めてを繰り返して来た。
「今日だけって言ったよね。あと一つ言っとくけど、調子乗ったらすぐ離すからな」
「好きな人の手は絶対離しちゃ駄目だよ」
「だから好きじゃねーって何回言えばいいんだよ」
「楽しいね!」
、、、彼女は時々耳が遠くなるらしい。

少し歩いていると、お土産を買うお店があった。他にもテーマパーク限定の服や、被り物がある。もちろん僕は寄る気はない。
「あ、ねーねー!ペアルックしようよ!」
この人は寄る気満々の様だ。
「いややめとこうよ。宮澤さん折角お洒落してきたのにもったいないじゃないか」
爽やかに言った。こう言えば諦めるだろう。
「あ、そっか。まぁたしかに」
やはり馬鹿である。単純である。
「よし、じゃー行こっか」
「あ、待って」
先を進んだ僕の右手を引っ張り、数歩後ろに戻された。
「何?」
「被り物ペアルックは?」
「いや、折角、、、」
「被り物ペアルックは?」
「折角お洒落に、、、」
「被り物ペアルックは?」
「しましょうか」
「うん!しよう!」
怖い。リピート再生されたビデオの様に全く同じ顔で全く同じ事を言って来た。怖い。
僕は今日は特別だと言ったことを早くも後悔した。今日一体僕はどれくらい疲れるのだろうか。先が思いやられる。
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